photo-1514923995763-768e52f5af87_1080.jpg 活動へのご支援をお願いします。 photo-1495653797063-114787b77b23_1080.jpg ひとりで悩まず、お声かけください。 会報紙「J-BREATH 」 「J-BREATH 」第131号 2024/4/4発行 copd2021.png 5月9日は「呼吸の日」です。 img20220809111242763953.png 2023 COPD啓発ラング・ウォークは10月28日開催 img20230731010147829785.png 2023 息いきお散歩ラリー開催

J-BREATH第126号 2023年6月号掲載

COPDの新ガイドラインでは治療目標に「健康寿命の延命」が明示

「元気に年をとる」ことを目標に

  • 社会医療法人神鋼記念会 神鋼記念病院 呼吸器内科  大塚 浩二郎 先生
  •  

神鋼記念病院の大塚浩二郎先生に、COPDの病態について解説していただきます。ある研究会で大塚先生が「COPDはどうして息苦しいのか」「なぜ運動することが病態の改善につながるのか」など、とても分かりやすく解説されていたのを拝聴し、ぜひ患者さん向けに寄稿をとお願いしました。この病気を皆さんが改めて理解し、改善につなげていただければ幸いです。

J-BREATH第126号 2023年6月号掲載

COPDの新ガイドラインでは治療目標に
「健康寿命の延命」が明示

「元気に年をとる」ことを目標に

  • 社会医療法人神鋼記念会 神鋼記念病院
  • 呼吸器内科  大塚 浩二郎 先生
  •  

神鋼記念病院の大塚浩二郎先生に、COPDの病態について解説していただきます。ある研究会で大塚先生が「COPDはどうして息苦しいのか」「なぜ運動することが病態の改善につながるのか」など、とても分かりやすく解説されていたのを拝聴し、ぜひ患者さん向けに寄稿をとお願いしました。この病気を皆さんが改めて理解し、改善につなげていただければ幸いです。


COPDを理解しよう

COPDは男性の死亡順位の第9位に位置(2021年人口動態統計より)しております【図1】。生命に関わる重要な疾患であり、近年は新型コロナウィルス感染症の重症化因子となることでも注目されました。2004年に報告された本邦における有病率は40歳以上の成人の8.6%で60〜69歳では15.7%、70〜79歳では24.4%と高齢者では高率にCOPDを有していることが示されました。
 
 このような背景の中、健康日本21(2次)においてCOPDの認知度の向上が目標とされました。多くの著名人がCOPDの啓発活動に参加されましたが、10年を経た現在においてもあいかわらず認知度が低いことが問題です。ここではまずCOPDという病気についてその病態を理解し、問題点やその解決策について考えていきたいと思います。
 

 

COPDとは?

 COPDはchronic obstructive pulmonary diseaseの頭文字をとったもので日本語では「慢性閉塞性肺疾患」と言います。「慢性気管支炎」や「肺気腫」といった個別の病名の方に馴染みのある方も多いかと思いますが、現在はそれらを総称してCOPDという言葉が使われます。慢性気管支炎は文字通り気道の炎症により慢性の喀痰症状をきたす「症候」に由来する病名です。
 
 一方で肺気腫は肺胞が破壊された「形態」に由来する病名でその程度はCTで評価することができます。COPDでは(末梢)気道病変と肺気腫病変が混在化して病態を形成します。その原因は有害物質の長期吸入であり、本邦においてはタバコです。喫煙歴のある患者さんが呼吸機能検査で後述する閉塞性障害を有し、他の原因が除外できればCOPDと診断されます。
 

慢性閉塞性肺疾患の「閉塞性」とは何?

「閉塞性障害」はスパイロメトリーという呼吸機能検査で診断されます。健康診断や人間ドックなどでも行われる検査です。検査では最大まで空気を吸い込んだあとに、なるべく早く吐き出し最後まで吐き切ります。吐き出すことができた最大のガスの量が「(努力性)肺活量」であり、吐き出しはじめて最初の1秒間で吐き出した量が「一秒量」、努力性肺活量に対する一秒量の割合が「一秒率」となります。この検査では肺活量が低下した「拘束性障害」と一秒率が低下した「閉塞性障害」を診断します。拘束性障害の代表的な疾患に間質性肺炎があり、肺の線維化により肺の容量が低下します。一方でCOPDでは気道の狭窄や気腫による弾性収縮力(縮みやすさ)の低下などにより一秒量、一秒率が低下して気流閉塞(「閉塞性障害」)をきたします。
 

COPDの肺は過膨張

 慢性呼吸不全のために在宅酸素療法を行っている2人の患者さんのレントゲンを示します【図2】。AはCOPDの患者さんで肺は大きく(過膨張)なっています。Bは間質性肺炎の患者さんで肺は縮んでおります。呼吸機能検査ではCOPDでは一秒量および一秒率の低下を認めますが、肺活量は同程度になっています。
 


 これを説明する模式図を示します【図3】。COPDでは肺は大きく(過膨張)なっていますが、息を吐き出した後でも残存するガス(残気量と言います)が多く、吐き出せるガスの量(肺活量)は小さくなっています。一方で間質性肺炎においては、吸気時、呼気時ともに肺の大きさは小さくなっています。

 

 COPD患者さんが、呼吸リハビリテーションで「口すぼめ呼吸」や「腹式呼吸」「排痰」の指導を受けることは、吐き出せるガスの量を多くし、残気量を減らす狙いがあります。
 COPDは肺の過膨張が特徴ですが、労作時には「動的過膨張」と言われる病態が息切れに関与します。労作により換気回数が増えると息を吐き切る前に次の吸気がはじまり、吸気開始時の肺が少しずつ大きくなっていきます。一定の大きさまでにいたると換気が制限されます。
 
 息切れを生じる機序は病気により異なるため原因となる肺の病気によって治療戦略が異なります。COPDでは気管支拡張薬により気流閉塞と過膨張を改善させて息切れを緩和します。気管支拡張薬は吸入薬が用いられ、長時間作動型の抗コリン薬とβ-2刺激薬、およびその合剤があります。またCOPDでは喘息病態を合併する例が多く、そういう患者さんに対しては吸入ステロイドが有効であり、気管支拡張薬2剤との合剤であるトリプル製剤の使用が広がってきています。

 

COPDを早く見つけよう

 ここまでCOPDの病態について説明してきましたが、どうしてCOPDの早期発見は難しいのでしょうか。一つ目の理由として患者さん本人が症状を自覚にしにくいという点が挙げられます。初期には症状を自覚しにくく、さらに症状の進行も緩やかなため症状に対する慣れも生じます。このためかなり進行した状態になってはじめてCOPDと診断されます。先に述べたレントゲンでの肺の過膨張は重症になるまでは明らかになりません。COPDは進行性の疾患であり、早期介入によりできるだけ早く進行に待ったをかけることが重要です。中年以降で過去に喫煙歴があればCOPDを疑って一度はスパイロメトリーを行うことが勧められます。
 

毎日の活動が重要

 次に身体活動性について述べます。最大の運動能力を表わす「運動耐容能」に対して「身体活動性」は日常生活における活動と運動を表します。その評価方法も運動耐容能が6分間歩行テストなどで評価するのに対して、身体活動性は1日歩数や3軸(センサー)加速度計というものを用います。最近ではスマートフォンに歩数計や加速度計の機能が入っていることも多く、気軽に記録できるようになりました。COPD患者では身体活動性が早期のうちから低下することが知られており、肺機能の低下などよりも身体活動性が生存率に寄与(身体活動性が低い方が生存率が低い)するという報告もあります。身体活動性は運動に限らず家の中での生活活動も含み、セデンタリー時間といって座位やリクライニング、臥位の時間が生存率に寄与する(長い方が生存率は低い)ことも報告されております。
 
 また、身体活動による息切れを避けるために座りがちになると、更に身体活動性が低下するという「負のスパイラル」に陥ります。身体活動性の低下は体重減少、筋力低下、疲労、歩行速度の低下とならび身体的フレイルの要素の一つであり、COPDはフレイルサイクル【図4】を促進する因子と捉えることもできます。COPD患者さんのCTで脊柱起立筋(脊柱の両側に並ぶ上下に長い筋肉で上半身を起こした状態を維持する筋肉)の断面積をみるとその大きさが予後と関連(大きいほど良い)するという興味深い報告もされています。このようにCOPDでは日々の生活の中で活動度を上げることが大事です。COVID-19流行期には身体活動性の低下が指摘されていることも申し添えておきます。
 

 

老化が加速するCOPD

 これまでCOPDを閉塞性障害や肺の過膨張といった呼吸機能異常とそれによる息切れや身体活動性の低下の視点でお話ししてきました。もう一つの視点として全身性の炎症(長期のタバコ煙曝露が原因の一つと考えられます)を中心に据える考え方があります。全身性の炎症を背景に心・血管疾患や糖尿病・メタボリック症候群、骨粗しょう症などの生活習慣病を合併するというものです。COPD患者は併存する病気の数が多く、併存症の数でみるとCOPDのない患者さんと比較して年齢差が10〜20歳異なる、すなわち年をとっているとする報告もあります。併存症を多臓器の老化ととらえる他、先に述べたフレイル、嚥下機能をはじめとした生理機能の低下など「老化」を病態の中心にとらえる考えも提唱されています。COPD患者では皮膚のシワが増加しているという興味深い報告もあります。

 他疾患受診中で喫煙歴を有し、COPDと診断されていない患者さんにスパイロメトリーを行うと70〜79歳では5割以上、80歳以上では6割以上にCOPDを認めたと報告されています。早期の診断・介入により「老化」を遅らせることが重要であり、生活習慣病で通院している高齢者で喫煙歴があればCOPDの検索は必須と考えるべきでしょう。
 

元気に長生きすることが目標

日本人は平均寿命と健康寿命の差が約10年あることが報告されています。COPDはこれまで話してきたように症状として自覚する前から早期に身体活動性が低下し、負のスパイラルによりその低下は加速、フレイルサイクルが促進する他、全身性の炎症を背景に併存症を合併して健康寿命が短縮するものと考えられます。COPDのガイドラインでは治療目標に「健康寿命の延長」が明示されており、「元気に年をとる」ことが目標です。
 

 

治療は薬だけではない

 治療というと薬物療法に目がいきがちで、医療者も患者さんも毎日の内服や吸入で満足してしまっているケースが見受けられます。しかしながら、COPDにおいては非薬物療法も重要であり、どちらかでも抜けていれば十分な治療とは言えません。非薬物療法の中心は呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)ですが、運動療法に気管支拡張薬を併用すると運動耐容能が向上することも報告されています。

 なお、呼吸リハは単に運動療法のみでなく患者教育や心理サポート、社会的サポートが重要であり、理学療法士に加え看護師、薬剤師、栄養士、医師など多職種による介入を要します。日常生活での身体活動度を上げること、QOL(生活の質)の改善が目標です。本稿では触れられませんでしたが、栄養療法も重要です。タンパク摂取量の低下は筋力低下、更には死亡率と関連することなども報告されています。このようにCOPDの治療においては多職種がからみますが、病院内の他、地域においても多職種連携が少しずつ進んでいます。まずはかかりつけ医に一度相談してみましょう。
 

思い立ったが吉日

 患者さんも医療者も「年だから」と思いがちですが、これまで述べてきたCOPDの病態およびその管理目標である「健康寿命の延長」の意味をしっかり理解してCOPDと向き合うことが重要です。身体活動性の視点でみるとライフスタイルの変容が必要となってきますが、まずは身近な生活習慣の「ちょっとした見直し、工夫」からはじめるのも良いかもしれません。