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J-BREATH第109号 2020年8月号掲載

新型コロナウィルス感染症緊急座談会

パルスオキシメータをつけて、ムーブ・アット・ホーム!


 
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行の中でパルスオキシメータの有効性が着目されていますが、呼吸器疾患を持つ患者様がどのように活用すれば良いかといった情報はまだまだ不足しています。今回、日本呼吸器障害者情報センター様から事前に頂いたご質問を含めて、東海大学医学部の桑平一郎先生にパルスオキシメータを活用した自己管理方法についてお話を伺いました。(文中の敬称は略します)

J-BREATH第109号 2020年8月号掲載

新型コロナウィルス感染症緊急座談会

パルスオキシメータをつけて、ムーブ・アット・ホーム!


 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行の中でパルスオキシメータの有効性が着目されていますが、呼吸器疾患を持つ患者様がどのように活用すれば良いかといった情報はまだまだ不足しています。今回、日本呼吸器障害者情報センター様から事前に頂いたご質問を含めて、東海大学医学部の桑平一郎先生にパルスオキシメータを活用した自己管理方法についてお話を伺いました。(文中の敬称は略します)
パルスオキシメータを活用した自己管理方法
パルスオキシメータを活用した
自己管理方法
司会(座談会事務局) 桑平先生、お時間をいただきありがとうございます。本日は患者団体である日本呼吸器障害者情報センター様からも事前にご質問をいただいていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 
桑平 はい、よろしくお願いします。
 
KM(コニカミノルタ) 新型コロナでは、無症状でも急激に肺炎が進行し重症化する、サイレント肺炎といわれる病態があり、感染者の重症化を早期発見するにはパルスオキシメータが積極的に活用されるようになりました。パルスオキシメータはマスコミ報道の影響で、健康な方々による購入急増や、軽症者等の宿泊療養施設への緊急配備があり、4月・5月には全国的に品薄状態となりました。高齢者や基礎疾患を持つ方々は重症化リスクが高いこと、さらに基礎疾患の中でも特にCOPDでは死亡リスクが他の疾患よりも高いという報告もあり、基礎疾患をお持ちの方々が購入できないという状況はメーカーとして非常に心苦しい状況でした。現在、ようやくパルスオキシメータも増産体制が整い、供給面の不安はなくなっています。第2波、第3波の不安を抱える中、呼吸器疾患を持つ方が治療の継続と感染予防にパルスオキシメータをどのように活用していくのか、桑平先生にお伺いしたいと思います。
 まず、患者様に特に気を付けていただきたいことは何でしょうか?
 
 
桑平 
新型コロナ禍では手指消毒・うがい・マスクをするなどを、普段以上にしっかり行うこと、感染に対する予防意識を高めることが重要です。それには「子供のうんち」をイメージすることです。「子供のうんち」が付いていると思えば、食事をする前に手を洗う、また、電車でつり革に触った後はすぐに手洗い・消毒をしないではいられなくなるでしょう。
 禁煙については、本人の禁煙だけでなく、「受動喫煙防止」が重要です。新型コロナのウイルスは、ヒトの細胞にあるACE2受容体というところに取り付きます。ヒトの研究では、現喫煙者が最もこのACE2受容体が増えているという結果が出ていますが、マウスを使った実験で、受動喫煙の被ばく量によって、ACE2受容体が増えているという結果も出ています。呼吸器の基礎疾患のある患者さんの中で、喫煙が関係するCOPDと間質性肺炎では感染リスクが上がるようです。これらの疾患では、感染した場合に重症化しやすいと考えられ、禁煙と受動喫煙防止というのは非常に大事です。
 
感染しやすい体にならないよう
禁煙はもちろん、受動喫煙を
防止することが、非常に大事

 
司会 高齢者や基礎疾患のある方を守るという観点では、ウイルスをうつさないことはもちろん、患者様の感染リスクを高めないように家族や周りの方も禁煙をするという事が大切ですね。
 

ムーブ・アット・ホーム


桑平 新型コロナの対応では、「ステイ・ホーム」を守るようにと言われていますが、家でじっとしている・体を動かさないというのは問題です。呼吸器だけではなく、循環器でも「ステイ・ホーム」週間に合併症等のリスクが上がったという報告がなされています。「ステイ・ホーム」ではなく、「ムーブ・アット・ホーム」=「家の中にいても動きなさい」が大切です。これは和歌山病院の南方良章先生とやり取りをしていた時に出てきた言葉です。オリジナルは南方先生です。家でじっとテレビを観ている・本を読んでいる・パソコンを見ているだけでなく、椅子に座っていても足を動かしたり、屈伸をしたりとか、家の中にいても、少しでも筋肉を使う運動を心がけて欲しい。家で歩数計を付けて、「いかに動いていないか」を実感するのも良いかも知れません。
 通院に関しては、公共交通機関の利用や、病院にはいろんな患者さんがいらっしゃるので、感染リスクを考えると、安定している時は出来れば病院に行かずに済む方がいいと考えています。GOLDのCOVID-19ガイダンスでは「これまで行ってきた治療をきちんと継続しなさい」とあり、吸入ステロイド薬についても継続が必要です。当院では電話再診にして、ご本人の病状が落ち着いていることが確認できれば、処方箋自体を郵送したり、薬局から薬を宅急便で送付したり工夫して対応していました。もちろん診察を受けるのは大事だという事が大前提です。
 
KM 「ステイ・ホーム」によって、通院せずに済むのは楽な反面、それに慣れてしまって、体力が落ちて病状が悪くなるという心配はありませんか?
 
桑平 外は新型コロナの心配がありますので、家の中でちょっとでも動けるようにする「ムーブ・アット・ホーム」習慣をつけることがやはり重要になります。
 

パルスオキシメータの測定頻度は?


司会 一般の方の場合、37.5度以上の発熱や呼吸症状の発現が新型コロナでの受診基準になっていますが、呼吸器疾患を持つ方の場合は、日常的に起こりうる状態だと思います。このような場合の受診基準はどのように考えたら良いのでしょうか?
 
桑平 普段のご自身の状態と比べて変化しているかどうかという事が重要で、SpO2もそうですが、呼吸数も非常に重要だと思います。普段の自分の呼吸数が、例えばゆったり椅子に座っている状態で20回/分だとしたら、それが何回計っても24回や26回と増えていたら、それは何かおかしいという事だと思います。パルスオキシメータでも、普段の自分のSpO2が92%や93%などの場合、それが90%に落ちていて、一生懸命に呼吸しても、92%や93%まで上がってこない、といった見方が参考になってくると思います。
 
司会 パルスオキシメータの数値で受診判断をする時に、どの頻度で測り、どのような数字になったら受診すべきという基準はありますか?
 新型コロナの場合は急激な症状悪化があるため、1日2回の測定では見過ごす可能性があるという指摘もあります。
 
桑平 安定していれば、別に朝夕2回でも良いと思いますが、その値が普段よりも少し低めだった場合、朝測ったら、もう一度昼に測ってみて、差があるようであれば、2回3回4回とチェックしていく必要があると思います。
 
司会 普段よりも1ないし2%違っていたら、4時間程度の間隔で測ってみる。そこで、もっと悪くなっているのか・戻っているのか・維持なのかというチェックを入れていく。その時に更にちょっと下がっていたとしたら、1時間後か2時間後にチェックしてみて、何をやっても悪化傾向が続くようでしたら、迷わず先生に相談するという事ですね。
 

新型コロナで受診すべき基準は?

 
KM 「よくわかるパルスオキシメータ」(日本呼吸器学会刊行)では、呼吸器疾患を持つ方が増悪した際の受診の推奨はSpO2が90%を切るか、普段よりも3~4%下がった時とされています。急激なSpO2低下をきたす可能性のある新型コロナの場合には、この基準はどうなりますか?
 
桑平 確かに仮に感染した場合は急に悪くなる場合もありますし、余裕をもって93%を切るような場合は注意して良いと思います。そういう状態になっている場合は、呼吸数も脈拍数も普段よりも増えていますよね。それを参考に受診するかどうか判断すべきです。
 
司会 呼吸器疾患を持つ方は元々SpO2が低いことも珍しくないため、93%という数値そのものよりも、普段の数値に対してどうなのかという観点が重要ですね。
 
桑平 そうですね。呼吸不全の患者さんという事であれば、普段に比べて3%低下している場合には、絶対に何か起こしていますからね。新型コロナにおいては悪化スピードが速いという事を考えれば、安全のためには、「3~4%」ではなく、普段の数値から「3%」低下していれば、受診推奨という考え方が妥当だと思います。反対に、2%程度で積極的に受診してしまうと、通院での感染リスクが高まってしまうかも知れません。
 

息切れの観察が大切


司会 次に呼吸器症状ですが、医療者向けの新型コロナ感染症の『診療の手引き』によると、中等症の臨床状態には。〝息切れが見られる〟とありますが、診療のポイントとして〟低酸素血症があっても呼吸困難を訴えないことがある〟ので注意が必要とあります。感染した場合に、悪化してくると息切れが出る場合もあるし、息切れがなくても低酸素血症を生じることがあるという事でしょうか?
 
桑平 そうです。低酸素だけでは息切れは起こりません。低酸素に伴って、呼吸中枢が働いて、呼吸筋や横隔膜を動かしますが、その努力に見合った改善が得られないと、それが不快感としての息切れが出てくるのです。
 また、新型コロナの場合には、サイレント肺炎といったように、肺の状態が相当悪化しているにも関わらず、何も症状が出ないという事もあるので、そちらも警戒が必要です。
 
司会 呼吸器疾患を持つ方にとっては、呼吸数が〝いくつか〟ではなく、〝いつもより増えているか〟という視点が必要になると思いますが、どのように判断すればよいでしょうか?
 
桑平 呼吸数が増えていると、会話が続かなくなってきて、普段の話し方と違ってきます。いつも話している時とは違って、途中で息継ぎが入っていないかなど、話している時の呼吸を見るのが、一段と分かりやすいです。会話の間にどれくらい息継ぎをするのか、息がどのくらい続くのか、それが参考になると思います。
 

呼吸数・SpO2・脈拍数が
〝普段と比べてどうか〟
という視点で受診の判断を

 
司会 ご家族が会話の中での変化に気付いてあげるようにするのが大切ですね。
 
桑平 また、患者さんが感じる呼吸困難感が、普段のそれと今日は何となく違うな、とご本人がお分かりになれば、それもすごく大事です。呼吸困難が起こった時、じっとしているうちに呼吸困難が治まっても、いつもに比べて長いということがあれば、それは何か起こっているという事になりますよね。息切れが治まるまでの時間が妙に長いとか、息切れの感じがいつもと何か違うなどがあれば、何か起こしているという事になります。
 
司会 受診するかどうかの判断としては、呼吸数あるいは息切れの状態に加えて、SpO2の普段との違いを見るということですね。
 
桑平 状態が悪くなった時には、脈拍数にも変化が表れてくると思います。パルスオキシメータを使用していれば、SpO2だけでなく、脈拍数も普段と比べて上がっていないかなどを見ることができますね。
 

パルスオキシメータの選び方

 
司会 次はパルスオキシメータをどう選ぶかというテーマに移ります。
 
KM 患者会様からは「誰でも使えますか?」「パルスオキシメータを上手に使う方法はありますか?」というご質問と、ネットオークションで買っても大丈夫ですか?」といったご質問を頂いています。背景として、膨大な情報の中から、どのパルスオキシメータを購入すれば良いのか、分かりづらくなっているという事があります。
 
桑平 機種を選択するうえで、呼吸器学会Q&Aでは、JIS規格に則っているものを推奨していましたね。
 
KM ただ、規格ではカバーできない問題が出てきています。患者様の状態が悪い時に、指先の血流が悪くなってきますが、そういう状態の時に、しっかりと測れないものも流通するようになってきました。血流が悪い時に、本来の正しい値よりも低い値を出したり、高い値を出したり、そもそも測れないというものもあります。規格には、そうした性能については明確に規定されていません。「誰でも使えますか?」という質問に対しては、状態が悪い時でもきちんと測定できる製品であれば「イエス」ですが、そうでない製品も多く存在します。
 
桑平 難しいのは、価格が高ければより精度が良いのだけれど、やっぱり経済的に大変なので高いのは買えないといった場合に、どれくらいの価格であれば良いのか?というふうに患者さんは考えるんですよね。私もネットで見ましたが、3千円~7千円くらいのものと、3万円くらいの価格のものがあり、その間の価格があまり無いじゃないですか。
 

パルスオキシメータの真の実力「低脈波性能」

 
KM 
患者さんの状態が悪い時でもきちんと測れるかの判断の一つとして、「低脈波性能」が挙げられます。これは指先の血流が悪くなった時に、低脈波性能が高ければ高いほど、より安心して使って頂けるというものです。「低脈波性能」はPI値で表現されますが、数値が小さくても測れれば、それだけ性能はいいと言えます。PI値は1.0%でかなり血流が悪い状態ですが、最新の機種では、PI値0.3%の場合でも測定できることを公開しています。非常に安価な機種では、もっと血流の良い状態でも測定エラーが出たりするようです。
 
司会 一般の方が、自分で比較するのは難しいので、もっと分かりやすい方法はありますか?
 
KM 規格では低脈波性能が良いものは、その情報を公開しなさいと定められています。逆に言えば「低脈波性能を教えてください」と聞かれて、答えられなければ、「良くない」と考えてもらえれば良いのかなと思います。
 
桑平 そうすると、高くても良いモノを買ってくださいということにはなりますが、パルスオキシメータ購入の助成金という制度がありますね。
 
KM 各自治体で、重度障害者の日常生活給付事業でパルスオキシメータが対象になっているところが多くなっています。地域によりますが、3万円~6万円程度の助成が受けられるようです。
 
桑平 それであれば、価格をあまり気にせずに、良いものを購入してくださいという事になりますよね。
 
KM そういう補助を利用しながら、きちんとした性能のものを手に入れることが推奨されると思います。
 
司会 新型コロナ下での、清掃消毒に関して、家族で使いまわしをする場合どうすればいいですか?
 
KM はい、ご家庭では他の生活用品の消毒と同じ感覚で、市販のアルコール等の除菌ウェットティッシュをご使用頂ければ良いかと思います。
 最新機種では12種類の代表的な消毒用薬剤を使って耐久性試験を行っています。感染予防に頻回に清掃消毒されても、壊れにくいというところもポイントになります。
 

これからの備えを


KM 「市中感染が拡大する前に備えましょう」という事で、基本的に呼吸器疾患を持つ方は、出来たら持っておいた方が良いと考えて間違いないでしょうか。
 
桑平 それは持っておいた方が良いです。病状が安定している時は測らなくて良いんですけど、いざ本当に数値を確認したい時というのは、患者さんの状態があまり良くないので、そういう時により確かな精度で、きちんと測れるものの方が安心して使えると思います。きちんとした精度のもので普段は測れているのに、ある時に測れなかったら、それはやっぱり体の変調が起こっているという事にもなりますからね。だから、今のうちから、安定しているときに、こういう事に慣れ親しんでおくと、本当に困ったときに、実際に測るときにも慌てずに測れますよというメッセージではないですかね。
 

いざという時でも安心できるよう
普段からパルスオキシメータの
測定に慣れておく

 

自分のライフスタイルに合わせた測定が大切


桑平 それから、朝起きた時と、昼間活動している時と、そういう違いも、自分なりの日内変動を自分で把握しておくというのは凄く重要です。食事をとった後、お腹がふくれてくると、ちょっと息苦しいから、その時いくつくらいかとか、トイレに行って戻ってくるとどうかとか、酸素吸入をしながらシャワーを浴びる方もいらっしゃる訳で、その時にどうかとか、そういう自分なりのライフスタイルに合わせた変化というのをちゃんと見ておくと良いと思います。
 その時には、呼吸数と脈拍数を同時に見ながらが良いですよね。脈拍数はパルスオキシメータで確認できますから。
 
KM まず、30秒なり測ってみて、それと加えて「観察をする」のが大事ということですね。普段通りしゃべれないとか、「普段の私がこうです」というのを組み合わせることで、一層自己管理が進むと思います。
 体調の良い時に、朝晩と、食後とシャワーの後、それを例えば3日間ほど測ってみて、自分は普段「これくらい」というのが分かれば、変化を見つけやすくなるということですよね。
 
桑平 そうですね。それは凄く良いですね。
 家の中で体を動かして、ムーブ・アット・ホームで、「SpO2がどう下がっているのか」を確認するのも良いと思いますよ。椅子に座って足を動かしたり、立ったり・座ったりする動作が、SpO2にどう影響するかを見ておくと、普段の状態を分かっていれば、ちょっと動いてSpO2が下がるだけでも、体の状態が変だなというのが分かります。
 
KM 「軽い運動の後に」というのを加えると、それを測らなければならないために運動するということにもつながりますね。
 
桑平 今回の座談会は、「パルスオキシメータをつけて、ムーブ・アット・ホーム!」というタイトルで良いんじゃないですか?
 
一同 それは良いですね!!
 
司会 それでは以上で座談会を終了させていただきます。桑平先生には具体的な活用のポイントを丁寧に教えていただき、本当にありがとうございました。
  

桑平先生が発刊に携わられた日本呼吸器学会発行の『パルスオキシメータハンドブック』(2014年)。使用上の注意や精度などとについて、それまで医療従事者でも正しく知られていなかった事柄が、Q&A形式で網羅されている。
『パルスオキシメータハンドブック』(PDF)
「よく分かるパルスオキシメータ」(PDF)

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