患者さんインタビュー
J-BREATHでは慢性呼吸器疾患患者さんの在宅での療養生活をご紹介しています。疾患も環境もそして家族構成も違う中で、在宅酸素療法などを行いながら、どのように病気と向き合って日常生活を送られているか、様々な工夫を凝らして、明るく前向きに暮らしている患者さん達のインタビュー記事をご紹介します。是非、一人でも多くの方に読んでいただき、思いを共有していただけますと幸いです。
患者さんインタビュー
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J-BREATH第65号 2013年掲載
COPD在宅酸素療法でも、行けます海外旅行
その準備と実態
須藤 高志さん
病状について
平成25年春先3月にCOPDと診断されました。
経緯。診断される約1年半ほど前から、階段の昇りの際、息が切れるようになっていました。その後、平地でも500メートルくらい歩くと息が切れるようになり、いったん立ち止まり息を調整するようになりました。その時、約1年間、ある病院にて治療にあたり、まず「睡眠時無呼吸症候群」と言われマウスピースを作成し、夜中のいびきはまずは治ったようでした。治療の薬、気管支関係の吸入の薬を徐々に変えながら、様子を見ていましたが、息切れの状態は、一向に良くなることなく、何となく悪くなっているような状態でした。
そこで、4月から第3の職場人生を始めるにあたり、春先に思い切って病院を現在のところに変えたところ「りっぱなCOPD。前の病院では、何にもしなかったようだけど、早速治療法を変えます」と言われました。先生曰く、「体が酸素を十分に取り込めていない状態を長く続けていたので、還暦を過ぎた身体がその状態に慣れてしまっていたようです。幸いにも低酸素症に陥ったりする緊急事態が起こることもなく、息切れが激しくなった、と思っている程度で生活をしていたのでしょう」と少し驚かれてしまいました。
早速、飲み薬・吸入の薬をすべて取り替えた上で、「在宅酸素療法」と言われて、家に居る時は毎分1リットルの酸素量で常にチューブ(カニューラ)を鼻に付けることになりました。自分としても初めてのことでした。また外出、通勤、職場での携帯用酸素ボンベは、春先のうちはまだ使用はしておりませんでした。その後6月に入り少し無理もあったのかもしれませんが、中旬に急性肺炎になってしまいました。39度の熱がでて、主治医の先生の所で診察を受けたところ、肺炎とのことで、そのまま入院になり病院直行となりました。ちょうど1か月間、入院と療養を経て、会社へは7月の中旬に復帰し、通勤と職場でも携帯用酸素ボンベでできるだけ酸素を吸うように指示を受け、治療を続けている状態です。
海外旅行の準備と心構え
実は、春先から、お知り合いと夏休みの海外旅行の話が持ち上がっており、私どもの夫婦が、今年ちょうど結婚8周年を迎えるところでしたので、是非その知人の旅行に同行させてもらいたいということで、往復の飛行機の航空券をネットを通じ、既に手配してしまっておりました(航空券は、ある程度安いものを探しましたので、取り消しはできません)。
退院後2週間ほどでの出発日の設定でしたので、主治医の先生に、病状の確認と旅行に行けるものなのかをご相談させていただきました。
先生は、「在宅酸素療法」の患者の方でも、どんどん外へ出て、是非海外へも積極的に旅行してほしいことが基本的な考えで、行動範囲を広くするべく治療を受けているのだからこそもっと行動してほしい、と応援してくださいました。「今まで、飛行機での海外旅行という長時間移動での酸素の使用や、海外で携帯用酸素ボンベがどうすれば手配できるのかよく分からない状況で、患者としての行動範囲が狭くなっているのです」というようなことをお話しくださいました。
また、私の場合は、飛行機に乗っている間は、特に動くこともなく、本人が問題なければ良い。ただし、航空会社で酸素の提供があるはずであるので、2時間程の飛行時間の中で、酸素が供給されるか調べて、できれば、酸素の供給を受けるのが望ましいこと。現地で携帯用酸素ボンベではなくとも、ホテルで使用できる在宅酸素機器が手配できることが必要であること。特に私の症状は、少なくとも就寝時間をはさんでホテルに居る8時間程度は酸素供給ができないと10日間の旅行は厳しいものがある。
――との、見解でした。そして、「もちろん、旅行ですので、観光で動くこともあるでしょうが、昼間は携帯酸素は携行しなくても良いが、無理はしないことを心がけるように」と言われました。
海外旅行の準備
- 目的地=スペイン、バルセロナ
期間=7月9日出発〜8月6日帰国
使用航空会社=エールフランス航空、成田→パリ経由⇒バルセロナの往復。(ヨーロッパ内移動もエールフランス航空です)
目的地=スペイン、バルセロナ
期間=7月9日出発〜8月6日帰国
使用航空会社=エールフランス航空、成田→パリ経由⇒バルセロナの往復。(ヨーロッパ内移動もエールフランス航空です)
それでは、海外旅行準備に当たり実施したことをご紹介します。
○スペインの都市バルセロナに、在宅酸素機器のようなもの、または、携帯酸素ボンベを扱うところがあるか。
→インターネットでどんな項目でも問わず検索したところ、バルセロナにお住まいの日本人の女性の方で、医療補助をされているという方のホームページを見つけました。早速、メールを送り問い合わせたところ、ご返事をいただきました。ご本人はバルセロナ市内の病院で、医療を受けに来る日本人の医療通訳をしている方で、しかしながら「在宅酸素・携帯用酸素ボンベのことは、今まで聞いたこともなく、そのようなサービスをする会社も思い当たらない」との返事でした。
→日本の在宅医療機器を扱っているメーカーの「お客様窓口」に電話をかけ、スペインの事情を聞くも、自社はネットワークはない、現地の事
情は分からないとの返事。
→大手旅行業者の「お客様窓口」で同様に問い合わせるも、情報はなし。
→外国の事情をWebで調べて行くと、アメリカでは「携帯型酸素濃縮装置」の普及が進んでいるようで、日本の国土交通省航空局に当たる「アメリカ連邦航空局」が飛行機で使える携带型酸素濃縮装置を承認しており、「POC-Portable Oxygen Concentrators」としていろいろなメーカーの型式が載っていて、米国から海外へ行く飛行機での携帯用として承認されていました。しかし、ヨーロッパ地域内での情報は見当たりませんでした。
◎携帯型酸素濃縮装置を試す
そこで、再度先生に相談に伺い、米国でのPOCの件をお聞きすると、日本でもバッテリー電源で稼働するPOCのような「携帯型酸素濃縮装置」が開発され、使用できるようになってきているとのこと。「先生によると、「完成品ができており、今回試験的に使用する方向で、この会社の~携帯型酸素濃縮装置,を使って、海外でトライアルしてみましょうか」とご提案いただきました。
この「器具」は、電源装置、機器本体、3時間まで使用可能な蓄電池まで揃った一式で、35cm x 40cm x 15cm(厚み)、重さ4.5Kgほどで、内部保護のクッションにまとめられた洒落たバッグに収まっています。ただし、対応する電源は日本仕様100ボルト使用のみ。
次のような検討と打開策を講じました。
・呼吸に同調した酸素供給機能しかないものの、吸入停止状態が続けば警告音が鳴るので、私の場合は就寝。時に何か起こっても、アラームがあれば問題はない。
・欧州での使用に際しては、コンセントの形が違うので、海外のコンセント
と日本用のプラグを接続する器具を持って行くこと。
・一番大事な「変圧器」は、スマートなものではなくコイルを使っているような少々重たいものでも、モーターの長時間使用に耐えるものを秋葉原の専門店で探すことが良いと思います。今はやりのスマートな変圧器では、220〜240ボルトの高電圧を変換して機器のモーターを長時間回すので、寝ている間8時間ぐらい使用すると、熱をもって使用できなくなります(実際、これは私の今回の経験です)。変圧器が壊れたの一で、現地の電気修理一店を探し歩いて、幸運にも該当するものをやっと探し当て25ユーロで再度購入しています。大きさは15cm x 15cm x 10cm、少し重めですが片手で十分持てます。(※掲載当時の値段です)
◎飛行機での移動
次に飛行機での移動です。エールフランスのホームページにアクセスするか、「エールフランス呼吸障害」で検索すると、詳しく出ていました。
・酸素量が毎分2リットルを上回らなければ、医師による診断書は必要はない、と書いてあり、その上で、機内での酸素ボンベの手配が必要であればリクエストできる手順が書かれています。それにより、エールフランス航空では、「特別に研究された携帯キット(Wenoll WS 120)」が搭載され、同調した酸素供給機能だけですが、これにはなんとパルスオキシメーターもセットされている優れものでした。
実際の使用では、片道13時間フルの使用で、酸「素ボンベが不足した場合は別の酸素ボンベを出してきてくれました。ただし、機内用携帯キットは予約をする必要があり、また、料金が必要です。私の場合、成田~パリの国際線長距離路線が片道200ユーロ、パリーバルセロナの短距離国際線は片道100ユーロ、合計で、往復600ユーロかかりましたが、往復とも同じ型の酸素の携帯キットがそれぞれの路線ごとに提供され、安心して飛行機の旅をすること一ができました。
ところで、日本の会社が作っている「携帯型酸素濃縮装置」は、電源があると飛行機内でも使用できるのではないかと思うのは普通ではありますが、飛行機での規程があるとともに、どの航空会社の情報でも,通常は100ボルトの電源は飛行機内では供給していませんと謳っています。したがって、飛行機内の酸素使用に関しては自分が使う航空会社のホームページからしっかり調べて、念押しで、問い合わせ窓口へも電話して、航空機会社専用の機内使用酸素ボンベの予約確認など、直接聞いて確認をすることが大事です。私も、エールフランス航空の問い合わせ窓口で親切に教えていただいて、上手くいきました。
(注)日本航空、全日空など他の航空会社もそれぞれのウェブサイト(*)に問い合わせの連絡先と障害を持った人への案内が詳しく出ています。
*J-BREATHのサイトにリンクを紹介しています。
◎英文訳の診断書を持参
海外旅行に際し、「診断書の英文訳」を先生に作成してもらい、常に携行する態勢はとりました。
◎「携帯型酸素濃縮装置」の持ち運びについて
日本の会社のコンパクトな「携帯型酸素濃縮装置」本体を持って行くことになったわけですが、機器の「持ち運び」の状況については以下の通りです。必ず「飛行機内持ち込み手荷物」として、小さめのキャリーバッグに入れ、自分の手元に置きます。中身は、
- 「携帯型酸素濃縮装留」本体と説明書(英文があればそれも)を入れます。
- 約10日分の飲み薬
- 吸入用の薬
- 約1週間分の、風邪を引いた時用の緊急用薬
- それぞれの薬の英語訳全てを入れる
- 「診断書の原本」とそれの「英語訳診断書」
- この装置を海外で動かすための変圧器。海外用可変コンセントロ(プラグ)。何かのとき用の延長コードを一緒に入れて持ち歩くこととなります。
「大事なものは必ずキャリーバッグ等にコンパクトにひとまとめにして、我が身から離さないで、機内持ち込みとし、非常時に備えることが大事です。
◎空港でのセキュリティー通過と機内持ち込み
これら機器の一式は、もちろん成田・パリ・バルセロナの空港では、往復とも「機内持ち込み」になりますので、セキュリティーチェック通過は大丈夫か、機内に持ち込むことは問題ないか、各国に入国するときの税関なども含めて問題がないかなどの心配があります。
成田では、セキュリティーチェックでX線を通して「パソコンですか」と聞かれたので、「違います、呼吸補助機器です」と言って、中をあらためられたうえで問題なく出国。
パリでは到着後、ヨーロッパー内移動の国際線への乗り継ぎに移動する際、やはりセキュリティーチェックポイントを通りますが、「パソコンですか」と聞かれたので、「違います、呼吸補助機器です」と言って、2度のX線チェックを受けて中をあらためられましたが、問題なく入国。
スペイン・バルセロナの空港での入国審査は、特に検査はなく通過しました。
帰路も、セキュリティーチェックポイントでは、2度手間で、キャリーバッグを開けることは往きと同じですが、全く問題にはならず機内持ち込みで持ち帰りました。
◎現地での移動
現地では、お供させてもらった知り合いがマドリッドまで高速鉄道での2泊旅行を手配していましたが、「携帯型酸素濃縮装置」機器の持ち運びキャリーバッグのセット「一式」を大事に引っ張って行き、ホテルで使用しました。キャリーバッグに酸素関係、薬関係、英文も含めた書類関係をひとまとめにして持ち歩いていれば、何かの折りには予備充電池(3時間分)も使える上に、どこでも現地のコンセントに対応できるので安心です。
これまでも、呼吸器関係の疾患の場合は飛行機に乗ることにいろいろ制約がありましたが、アメリカにおける携帯型酸素濃縮装置の取り扱いが緩和される傾向にあるようですし、日本でも国際線、国内線の飛行機の中でのサービスについて、これからも便利な方向に向かっていくことが大いに期待されます。
実を言いますと、私は、6年前まで日本の航空会社で海外支店を含めて空港を中心に働いておりました。臓器移植の患者さんの飛行機移動をはじめ、愛の翼としての障害のある方のグループ旅行の飛行機のお手伝いなど20年以上も前からお手伝いさせていただきました。今回、自分がメディカルアシスタンスを受ける立場で海外旅行を実施しましたが、医療機器の進歩に助けられ、各航空会社の対応もしっかりしていることも確認させていただきながらの旅行でした。
酸素吸入自体は、それによってもっと外の世界に出て行くことを助けるツールと捉えていきたいと思って、紹介をさせていただきました。今回の私の海外旅行の顛末が、呼吸器疾患をお持ちの方で、飛行機での旅行・海外の旅行に補助機器を準備すれば行ける状態の方に少しでもお役に立てれば、大変うれしく思います。