photo-1514923995763-768e52f5af87_1080.jpg 活動へのご支援をお願いします。 photo-1495653797063-114787b77b23_1080.jpg ひとりで悩まず、お声かけください。 会報紙「J-BREATH 」 「J-BREATH 」第131号 2024/4/4発行 copd2021.png 5月9日は「呼吸の日」です。 img20220809111242763953.png 2023 COPD啓発ラング・ウォークは10月28日開催 img20240508232636396166.png 設立25周年を迎えました

J-BREATH 連載講座

講師:木田 厚瑞先生 

 呼吸ケアクリニック東京 臨床呼吸器疾患研究所 医療法人至心医療会 理事長


J-BREATH第87号 2016年12月号掲載

第19回 より快適な生活にするため運動を続ける

 

慢性の病気を解決する

 
 本紙の読者には慢性の呼吸器病の患者さんが多いことでしょう。慢性病の治療の目標とは何でしょうか。患者さんの立場に立てば薬が必要と言われたから受診しなければならない、薬は、無制限には出してくれないので定期受診が必要、ということでしょうが、他方、診る側の医師たちはいったい何を目標として慢性の病気を診るべきか、これが実は簡単ではありません。慢性の病気の治療で医師がもつべき原則は、問題点の順位を付けて治療にあたる「問題解決型」よりも快適に生活できるという「ゴール設定型」が良いと言われています。つまり、慢性の病気では原因を究明して根底から治そうとするのではなく、困っていることを重点的に解決する方法が良いというわけです。「問題解決型」の治療法とは主に急性の病気の治療で行うもので、優先順位を決めて重点的に始める方式です。しかし、この考え方では慢性病の治療は、難しくなります。とくに高齢者では軽い病気の重なりが多いからです。また、癌の患者さんの場合には「問題解決型」と「ゴール設定型」の両方が考えられ判断がさらに難しくなります。
 慢性病と急性病の治療とは根本的に異なった考え方で臨む必要があります。いま困っている、この人を少しでも快適な普通の生活に戻す、というような治療ゴールを決めることが大切なのです。その際、将来を予測し、いま治療をきちんと行っていかなければ大きな病気がいずれ顔を出す可能性が高いものは先に手をうっておく、という考えで治療を続けるべきでしょう。いまの生活を快適なものに変え、さらに、その先を読むという作戦を立てるのが実は非常に難しいのです。いま困っていることが何で、それはいつからどのように悪化してきたか、その原因は何か、いまどんな薬を使っているのか、これまでに経験してきた病気は何か、両親など家族に似た症状や経過の人はいないか。一人で暮らしているのか、病気になって不自由になってきたら近くに面倒を見てくれる人はいるのか、慢性病の治療に必要な情報は極めて広い範囲です。多彩な情報を総合してさしあたり解決すべき問題点となるゴールを明確にしていく。それをはっきりさせるため診察し、検査を行い、さらに問題点を絞り込んでゆくことになりますがこれが診察という行為なのです。時間がかかる作業になるのです。
 

日常生活でできることを実行する

 
 「医学会トップの健康法は......高久史麿・日本医学会会長」という記事がネットに掲載されました(平成28年6月24日)。今年、85歳で、多数の医学会を統括する日本医学会会長の高久先生の健康維持は、1日1万歩くらい歩く、腹八分目、野菜、魚を中心に食べる、だそうです。歩くことの大切さ、厚生労働省の調査では、日本人は、1日平均で成人男性は8,202歩、成人女性は7,282歩ですがシニア世代はもっと少ないことでしょう。歩行数の減少は、認知症となる危険性を増やすというデータもあります。
今年5月、英国の有名な医学雑誌『ランセット』に世界の14ヵ所の大都市で暮らす18歳から66歳までの約7,000人の人たちが日常、どのような運動を楽しんでいるかについての研究報告がありました。人口密度が高くなり、交通の便が良くなり、近くに公園などがなければ都会人は動かなくなるというものでした。わが国では、都会だけではなく辺鄙な田舎で暮らす高齢者も買い物に出かけのも難しくなり、孤立化してきています。
 呼吸器や心臓の病気の治療では食べること、運動に関する注意や指導はとりわけ大切です。実際、好き放題、マイペースの生活をおくってきた人たちが罹る病気が生活習慣病と言っていいからです。
 

運動の難しさ

 
 「包括的呼吸リハビリテーション」の中で運動療法は中心となるべきものです。慢性の病気のほとんどで運動は大切な治療法の一つです。昔は、病気になると絶対安静が指示された時代がありました。いまでは考え方がかわり、心筋梗塞にしろ、脳梗塞にしろ、数日の急性期が過ぎればなるべく早く体を動かし、もとの生活に戻ることができるように早めに運動療法の計画が立てられるようになりました。
 運動は治療効果が上がるものでなくてはなりませんが何よりも自己流の運動で病気が悪化したり、危険なことが起こってはなりません。さらに運動は楽しみでなければ長続きしません。
 

健康な生活を取り戻す

 
 リハビリテーションは日本語訳が難しい言葉です。広辞苑では、「治療段階を終えた疾病や外傷の後遺症を持つ人に対して、医学的・心理学的な指導や機能訓練を施し、機能回復・社会復帰をはかること。更生指導。リハビリ」とあります。この説明は現代医学の考え方から言えば、間違いに近いものです。しかし、「リハビリ」を始めましょう、と言えば、患者さんに通じるようになっており、いまではこれが日本語になっています。ちなみに英語圏では短く言うときには「リハブ」と呼ぶことが多いようです。
 実は英語の辞書を調べてもリハビリには多くの定義があり、これが正確な意味だ、というものがありません。1888年(明治21年)に出版された英国の医学雑誌『ランセット』には、リハビリテーションとは親から虐待やネグレクトを受けて傷ついた子供たちがもっとも好ましい状態にまで回復させる治療法、とも説明されています。多様な意味を持つ便利な言葉として使われてきたことは間違いありません。
 病気になってもできるだけ元の元気な状態に近づける、これがリハビリの基本的な考え方です。
 

リハビリテーションの歴史

 
 リハビリテーションは、近代医学よりもはるかに長い歴史を持っています。古代ギリシャでは障害者や病人は社会から排除され、中には罪人として扱われる場合がありました。これは健康な魂は健康な身体に宿ると考えられていたからで、傷を負った人たちや病人を「正常」な人に戻す必要がありました。対応に困ったのは戦争で傷を負った人たちです。英雄と呼ばれる人を何とかして早く正常な体に戻す必要があります。ここに取り組んだのが医聖と呼ばれるヒポクラテス(紀元前460年ごろ―紀元前375年ごろ)で、神聖病とされた癲癇(てんかん)の治療に運動や食事の指導を行っていました。なかでも運動は、特に重要視されていました。当時、オリンピックのように運動選手が花形だったからです。
 時代が経って西暦世紀のローマでは医師たちが運動やマッサージの重要性を指摘するようになります。さらに中世に至って医療は薬による治療や予防衛生に加え運動を治療法として取り込んでいきました。17世紀から20世紀にかけてヨーロッパではさらに運動の重要さを示す研究が進みます。リハビリテーションを現在の形に変貌させたのは米国学派と呼ばれる医学者グループでした。20世紀の初頭、ハーバード大学の付属病院であるマサチューセッツ総合病院ではすでにいくつかの先駆的治療が取り入れられていました。同院には、ゼンダー・ルームと呼ばれる最新の機器を備えたトレーニング・ルームがあったことが知られています。
 最近になっても運動に関する基礎的な研究はたくさん論文として発表されています。運動は治療法としては古くから知られていますが、実は不明の点が多い治療法なのです。
 

バラック先生の功績

 
 呼吸リハビリテーションを科学のレベルに引き上げたのは米国、コロンビア大学に席を置いたバラック教授といわれ1950年代のことでした。バラック先生は、呼吸器の新しい治療を発展させることにとりわけ熱心でした。1945年にはまだ開発中のペニシリンを肺炎の治療に使い救命できたことを報告しています。重症の喘息や肺気腫の治療にヘリウムガスと酸素を混合したヘリオックスを用いる研究も彼の発想でした。強い呼吸困難を和らげる効果があることからヘリオックスはわが国でも最近になって治療研究として行われたことがあります。酸素テントを治療に使ったことや、在宅酸素療法に使っている可搬式の酸素ボンベを治療目的に使ったのもバラック教授が最初でした。
 いまから半世紀前の1950年代に創造的で、しかも深く患者を診るという視点に立って新しい治療法を考案した努力には感心させられます。現在、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対し広く行われている呼吸リハビリテーションについて先駆的な考え方を報告したのもバラック先生でした。呼吸が苦しくて困っている人に運動を勧めるとは何たる非常識というのが当時の一般的な考え方でした。
 

呼吸リハビリテーションのはじまり

 
 正岡子規(1867ー1902)、石川啄木(1886ー1912)、樋口一葉(1872ー1896)が典型的な犠牲者として知られるように1900年代になって肺結核はわが国最大の死因でした。2003年、日本呼吸器学会は、『呼吸器学100年史』を発行しました。残念ながらこの中に呼吸リハビリテーションに取り組んだという記載はありませんが、わが国では肺結核後遺症による息切れで困っている患者さんに対し、一部の病院では専門的な呼吸リハビリテーションが行われていました。他方、欧米では肺結核は過去の病気であり、新しい病気としてCOPDが大きな問題となってきていました。
 

米国学派による考え方

 
 1974年、米国胸部専門医会(ACCP)の呼吸リハビリテーション委員会は概略、次のような定義を発表しています。
 「一人ひとりの患者にあわせた合目的なプログラムを立て、正確な診断、治療、心理的な支えと教育を通じて、病気を回復させ、病気があったとしても最大限の機能を回帰させようとする医療技術である」
 ここでは運動をすることが呼吸リハビリテーションとは言っていません。この考え方は時代を経て、追加、修正されて発展していきます。考え方の完成をみるのは1990年代に入ってからです。
 

わが国の呼吸リハビリテーション

 
 わが国で呼吸リハビリテーションが形をとるのは2001年のころからです。日本呼吸器学会と日本呼吸管理学会が共同で呼吸リハビリテーションに関するステートメントを発表します。まず、最初にとりかかったのが呼吸リハビリテーションの定義です。これは建物でいえば外観を決めるという作業に似ています。この定義は私が中心となり、関係する職種の人たちで作り上げました。
 それは以下の通りです。
 「呼吸リハビリテーションとは、呼吸器の病気によって生じた障害を持つ患者に対して、可能な限り機能を回復、維持させ、これにより、患者自身が自立できることを継続的に支援していくための医療である」
 ここでは呼吸リハビリテーションが医療であり、呼吸器の障害を持つすべての患者さんを少しでも活動的な生活ができるように戻し、自立できるようにすることを目的としています。病気は治せなくとも少しでも快適な生活に戻したい、という願いがこめられています。
 アメリカでは、肥満の医師が患者さんにダイエットを勧めたり、喫煙者の医師が患者さんに禁煙を勧めたりすると鼻から馬鹿にされると言われます。自分でもできないことを人に押し付けるなよ、というわけです。また、開業医を意味するプライマリ・ケアの医師が一番、手こずるのが患者さんに運動を勧める場合だと言われます。「運動をしないとだめですよ」という医師の勧めに「どんな運動をすればいいのですか」と聴かれると「さあ?」というのが大方の返事だと言われます。
 患者さんに対する生活の指導の中で「運動の勧め」は、実は一番、難しいことかも知れません。医師は多くの場合、自分の日常生活を基準に考えることが多いので、多忙で不健康な生活をおくっている毎日の中では答えに窮することが多くなるに違いありません。また、運動は手短かに口頭で説明するだけでは分かってもらえないし、具体的な方法を教えるには場所も時間もないということでしょう。
 リハビリテーションは、悪しき生活習慣に切り込みを入れるものでなくてはなりません。運動は大嫌い、食べものの好き嫌いは多く、おまけに高齢化とともに味覚が低下するので漬物に醤油をかける塩分過剰。しかも、一汁一菜こそが美徳と考えている人に考え方を変えてもらうのは、たいへん難しい仕事です。
 

運動の勧め

 
一般に運動が勧められる理由は、次のようなことが分かっているからです。
 

  • カロリーを使う。肥満気味の人では体重を減らす効果が大きい。
  • 糖尿病の人では血糖値を低下させる効果がある。
  • 高血圧の人では血圧を下げる効果がある。
  • 気分が落ち込んだり、鬱のような気が滅入った状態を改善する。
  • 骨や筋肉を鍛え、骨折しにくく、また疲れやすさを改善する。
  • 心臓病による死亡を下げる。

 

運動はどのように分けられるか

 
 次の3つのタイプに分けられます。
 

  • 有酸素運動
    • 持久性を保つ運動です。代表的なものは歩くこと、走ること、泳ぐことです。脈拍が多くなります。
  • 抵抗運動
    • 筋トレです。筋力を高めます。ダンベルを持ち上げたりする運動です。
  • ストレッチ
    • ストレッチは筋肉や関節を伸ばす運動で体の動きを良くします。

 

有酸素運動はなぜ大切か

 
 呼吸器の病気を持った患者さんになぜ有酸素運動が効果的か、イタリアの研究者は、「ブリーズ」(呼吸)という雑誌(2016年6月号)に詳しく理論を記載しています。その概要は以下の通りです。ただし、この結果は運動選手のような運動エリートから得られた結果ですが、一部は呼吸器の病気の人にも役立つと思われる情報です。
 

  • 心血管系と栄養を取り込む代謝作用を改善させる。
  • 有酸素運動は四肢の筋肉など、大きな筋肉に効果的である。
  • 有酸素運動を継続すると、それに体が次第に順応していき、結果的に運動能力がアップする
  • 筋肉の細胞に変化が生じ、酸素運搬に関わるミトコンドリアの酵素が増え、筋肉を構成する細胞の種類が運動に耐えられるものに変わっていく。また筋肉に細かな毛細血管が増える。
  • 心臓の働きが強くなっていき、必要なエネルギーの補充作用が高まる。
  • 呼吸器系では空気を取り込む量が増えていく。
  • 問題点として呼吸器の病気がある場合には、組織の酸素不足が強くなる危険がある。これが起こらないような運動が大切。
  • 運動を続けることにより息切れ感がゆっくり改善していく。
  • 他方、欠点として喘息のある人ではハアハアするような激しい呼吸で発作が引き起こされる可能性がある。その場合にはあらかじめ吸入薬を使っておくのが予防となる。ハアハアすると気管支の表面が乾燥することになり痰がでにくくなる。


 心臓の病気に使われている運動法は、そのまま呼吸器の病気の治療に使える部分と使えない部分があることがわかります。
 

 

運動を始める前に医師や看護師に相談する

 
 本紙の読者の方は慢性の呼吸器の病気で治療中のことが多いと思います。呼吸器だけでなく不整脈や高血圧など心血管系の病気が重なっている方も少なくないことでしょう。運動を始める前に必ず医師や看護師に相談して頂きたいと思います。呼吸器を専門とする理学療法士を紹介してもらうのも良いでしょう。できることなら運動を始める前に、心臓の超音波検査や6分間平地歩行テストを行い、どのくらいの運動なら安全かを確認してもらうのも役立つでしょう。
 運動は緩やかなものから始め、数日をかけてゆっくり時間を延ばしていくのが安全の上で大切です。
 

どのような運動をするか

 
ウォーミング・アップ
いきなり強い運動を始めることは危険です。ゆっくりと体を温めるつもりの歩行や5〜10分間のストレッチ運動が効果的です。

実際の運動
歩く、泳ぐ、機器を使った運動があります。体の全ての関節を伸ばす、背筋を伸ばすような運動を行います。一般に運動は強いほど効果があると言われますがその場合には危険を伴うことは先にお話しした通りです。病院で行うリハビリテーションとは違い、自宅で一人で行う運動は強いものを選ばず、弱めで時間を長めに行うのがコツです。

クール・ダウン
 運動で温まった体をゆっくり冷やし安静な状態にもっていくことです。運動を行うと下肢の血流は多くなります。急に中止すると下肢の静脈にたくさんある血液の量が心臓に一気に戻ることになり、不整脈や心臓発作を起こし突然死を起こす危険があると注意されています。登山もそうですが下山の途中で事故を起こすことが多いものです。ゆっくり体を冷やすクール・ダウンを忘れないでください。
 

どのような時が危険か

 
 運動中、危険な状態ですぐに家族や医師や看護師に連絡すべきは次のような場合です。
 

  • 急に呼吸が苦しくなり、吸うことも吐くこともできなくなった。喘息のようにゼイゼイする。
  • 胸や、手の特に左側、喉やあご、背中に強い痛みを感ずる場合。心臓発作の可能性があります。
  • 急に吐き気や嘔吐がある。
  • 脈が急に乱れてきた。
  • 気分が悪くなり気が遠くなる。

 
 自宅で行う運動は危険を避けるため、なるべく誰かが見ており、異常に気付きやすいところで行うべきです。私は患者さんには早朝や、夕方、一人で散歩に出かけるような運動は止めてもらっています。
 

運動の問題点

 
 運動には過負荷の原則があります。鍛え、向上させるためには少しずつ運動の負荷の強さを上げる必要があります。しかし、運動負荷を少しずつ上げていけば危険も上がることになります。自宅で行う場合には、この点が難しい判断です。
 運動の「処方」は、どのような強さか、その運動をどのくらいの時間、行うか、毎日行なうのか、週に3、4回なのかという頻度、どのような内容の運動を行うか、を決めてから行うべきです。思いつきで運動を急に行うことは危険です。また、思いこみで運動をしないため、自分で毎回、記録をとることをお勧めします。
 

運動中の注意

 

  • 水分は適宜、摂りましょう。
  • 寒いとき、また暑すぎるときの屋外での運動は控えましょう。
  • 衣服は、体が動きやすいものにすること、また屋外の運動では重ね着をして汗をかき過ぎないようにして下さい。
  • 運動中の転倒にも気をつけて下さい。歩きやすい、運動しやすい履物を選びましょう。

 

どのような呼吸器の病気に運動が勧められるか

 
 ヨーロッパの呼吸器財団では呼吸器の患者さんの全てにリハビリテーションを勧めています。以下の呼吸器の病気でリハビリテーションが効果的です。
 

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

 運動は大切な治療法です。下肢を鍛えることにより活動力を保ち、上肢を鍛えることにより息切れが緩和する効果があると言われます。「口すぼめ」呼吸を最初に修得することが大切です。心臓病の併存が多いので運動を始める前に心臓の検査を受けておきましょう。
 

喘息

 運動でハアハアすると喘息が誘発される運動誘発性喘息が知られています。水泳は喘息の患者さんに古くから勧められてきました。
 

間質性肺炎、肺線維症

 過剰な運動で酸素不足が起きやすい病気です。6分間平地歩行テストを行い、どのくらいの速さで歩くと酸素不足が起こるのかを確認しておきましょう。最近の研究では肺を無理に引き延ばすような運動は肺組織に無な力がかかり間質性肺炎を悪化させることが知られています。緩やかな運動を酸素不足が起こらない程度に行うのが良いと思われます。
 

気管支拡張症

 肺の容積が少なくなっている場合、運動で息切れが強くなることが知られています。運動は、COPDと間質性肺炎の両方にまたがる注意点を知って、行うのが安全です。
 

肺がん

 現在、「リハビリテーション」という項目で海外の文献を調べるとほとんど全ての病気でリハビリテーションが、有用であることを示す研究があります。例えば、白内障の手術の後のリハビリ、腎透析中のリハビリがそうです。認知症の治療として行動療法と呼ばれる治療法が効果的であることが知られています。肺がんの場合もそうですが、運動療法で、気分が良くなり、食欲が増し、睡眠もとれるようななった患者さんをたくさん診ています。
 

どこで呼吸のリハビリテーションの指導を受けるか

 
 残念ながら、リハビリテーションの施設は全国で不足しています。不足の理由は、医療保険の基準が、施設の広さ、人員、設備で整えなければならない条件が多く、それに対する医療報酬の点数が低く、採算が取れないことが理由です。以前、米国のデンバー市でスーパー・マーケットに隣接した小さな施設で呼吸のリハビリを行っているのを見学して感心したことがあります。買い物のついでにリハビリを実施できれば、これこそ日常生活に密着したものと言えそうです。最近、抗癌剤の治療薬の医療費は天文学的になり国民医療費を急激に押し上げることが社会的な問題になってきています。それに比べればリハビリに掛る医療費は微々たるものと言えそうです。少し、考え方を変えた医療政策ができれば簡単に解決しそうに思えてなりません。
 

運動を楽しみにしていく

 
 運動は呼吸リハビリテーションの中でも重要な項目です。COPDなど慢性の呼吸器の病気のほとんどが高齢者に多く、息切れで日常生活が不自由になるだけでなく、高齢と慢性の病気が重なると下肢の筋肉が衰えてきます。これは、最近、サルコペニアと呼ばれるようになりました。サルコペニアが強くなると認知機能も低下することが分かっています。昔はこれらをひっくるめて老衰と呼ばれ、治療の方法がない、とまで思われてきました。最近の科学の発達は、サルコペニアを予防し、治療する薬の開発に結びつくような研究にまで進んできました。
 運動は、安全に、しかも効果的に、なによりも楽しみとなるような方法でなければ長続きしません。これこそが、一人ひとりの考え方に深くかかわっていることです。